谷沢永一『嫉妬する人、される人』
嫉妬が日本社会を動かしているとみるのが、以前からの著者の持論です。本書では驚くべきエピソードが幾つも紹介されますが、陰惨な話が続いて重たくなるのを巧みに避けて、読みやすい体裁に仕上げられています。著者自ら本書は「嫉妬論」ではなく「嫉妬講談」であると述べていますが、さすがです。読者へのサービス精神旺盛なところは見習わなければ、と昨日出来上がった自分の学内紀要論文の校正を見ながら余計に痛感しています。
本書で指摘されて驚いたり納得させられたりしたことを、以下三つばかり挙げておきます。
一つには、北条泰時が御成敗式目の事実上の起案者でありながら、自分の名前を前面には押し出さなかったことです。おそらくは当時の年長順に13番目に署名しているだけというのですから、ほとんど自分の姿を消しています。著者は泰時を政治の天才と評し、「日本人とは何かをよくよく知っていた、恐ろしい男なのです」(32頁)と述べています。
もう一つは、日本の陸軍と海軍の仲の悪さで、すでに日露戦争の時から旅順攻略に際して海軍の協力の申し出を陸軍参謀総長が勝手に断っていたそうです。日清戦争の戦死者が2万人程度ですから、旅順戦だけで6万人の戦死者数は当時としてはかなりのものです。日本軍はこのころにしてすでにかなりお馬鹿なことをやっていたことがわかります。
最後に、鎌倉政権が合法と認められた根拠を著者は、頼朝が征夷大将軍という令外の官に任ぜられた措置にあると見ています。歴史が転回する節目に、嫉妬を超越した天皇が裁可を下されるという日本政治のパターンはこのとき始まったとしています(210頁)。なるほどそうかもしれません。
いずれにしても、人間社会で何らかの活動をする以上、自分の嫉妬心の制御と他人のそれへの対応策はしっかり立てておく必要があります。ことに職場で嫉妬が絡むことはしばしばありますが、これを甘く見ると命取りになります。
本書はその点で有益かつ具体的なアドバイスに満ちた本です。読書の効用についても述べられています。「本を読むことは、学問をすることではありません。自分の精神をコントロールするこつを覚えることなのです」(131-132頁)。つまり、読書で嫉妬を抑えるということなのです。
巻末の嫉妬関連文献一覧が改めて読書欲をそそります。へー、こんな本があったのなら読まなきゃという感じです。
(幻冬舎2004年1300円+税)
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