米原万里『愛の法則』
本書は著者の遺作だったのですね。もっとたくさん彼女の本を読みたかったのに、早く亡くなられて残念です。
本書は著者の講演を元にした読みやすい本ですが、しゃべったままでは本になりませんので、後からきっちりと本人が手を入れたのでしょう。きっと最期まで丁寧なお仕事をされていたのだと思います。本書の冒頭には池田清彦の暖かい文章が寄せられています。
ところで、同時通訳をしていた著者によると、サミットにおける同時通訳方式は、日本だけが英語以外の言語を全て英語経由で通訳するうというものでした。日本だけは妙なことをやっているのですね。でもこれは、国際化というと英語教育に力をいれることですべてが片がつくと思い込んでいるという、いかにもわが国らしいやり方です。
著者は同時通訳の仲間の中で英語の同時通訳者の話題が一番つまらないと述べていますが。著者はその原因を英語の通訳者の圧倒的多数が英語しかできないことに求めています。そうかもしれません。大学の英語の先生も英語以外の言語に堪能な先生は多くありません。
図抜けて優秀な英語学者は他言語も習得することを勧めていますが、まあ例外です。英語学者に限らず優秀な研究者はたいてい3ヶ国語以上の言語には通じています。そうすると「それぞれの言語が相対化されてひとつの言語をかなり突き放してみることができますが、英語の場合は英語一辺倒なんです」(101頁)と著者が述べていることもよくわかります。まあ確かに、よくいる英語バカって本当にバカですもんね。
著者は言うまでもなくロシア語の達人ですが、著者が9歳から14歳までプラハのロシア語学校で受けた教育方法は、かなりよく練り上げられたものだったようです。印象的なのは、国語の授業と宿題で実作品を大量に読ませるということです。学校の本を図書館に返すときにはその内容を司書の先生に話さなけらばならないし、授業では一段落を読み終わったら、その内容を自分の言葉で要約させるということを徹底的にやらされたとのことです。このことによって著者は「ものすごく攻撃的で立体的な読書」(174頁)になったと言います。
作文の授業でも人物描写の抜粋を読ませて、その要旨を書かせ、さらに細かくその物語の骨格=構造を書かせるといった分析的作業をさせます。そして、そこから今度はテーマについて自分でまとめて書くという段階に移って行きます。これって、一度教材を見てみたいものです。
自分で授業をするときにも、この分析と総合のプロセスは参考になります。自分なりに工夫して、いずれ行政法と比較文化論の授業やテキストにも取り入れてみるつもりです。
ところで、著者が子どもの頃愛読した大人向けの『三銃士』というのは、ダルタニアンとミレディーの濡れ場ばかりだったとのことです。へぇー、そうだったんですね。実家にもかつて全巻揃っていて「妖婦ミレディーの誘惑」なんていう巻もあったので、そこはかとなく気になってはいましたが、もはや処分してしまいました。そんなことなら読んでおけばよかった。
(集英社新書2007年660円+税)
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