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2010年3月 3日 (水)

ライアル・ワトソン『エレファントム 象はなぜ遠い記憶を語るのか』

 すごい本でした。人間の可能性が、動物の可能性と共に爽やかに広がる感じがする本です。ライアル・ワトソンについては昔流行っていたときには敬遠していましたが、読んでみると確かにスピリチュアルな面がありますが、決してキワモノではありません。
 本書は子どもの頃から象に強く惹かれていた著者の知的自伝も兼ねていて、うまく構成されています。なにせ、5歳の頃に象に近づきたくて、そのウンチに両手をつっこんだくらいですから本物です。10代前半には南アフリカのケープで友人たちと狩猟採集生活をしている時に、本格的な原住民(コイ族)と仲良くなり、一緒に白い象を目撃します。
 その白い象も原住民もひょっとしたら幻(ファントム)だったのかもしれないのですが、そうしたことも含めて全体的な生命現象として考察して行きます。超常現象的なことも否定せずに、全部考えてしまおうという姿勢は、きっと著者がアフリカの自然に接してきたからでしょう。
 ローレンツやデズモンド・モリスの教えを受けながら動物行動学者になった著者は、再び南アフリカの象に会いに行きます。保護区で最後の一頭になったメスの象は海岸に出てシロナガスクジラのメスと超低周波音で語り合うのです。
 象のコミュニケーションについては低周波だけでなく様々な手段があって、近年科学的な解明が進められている人のことで、驚かされることばかりです。著者の表現を借りると「象たちが何百万年ものあいだ使ってきた広大な生物ウェブの世界に、人間が参入するときが来たのだ」(276頁)ということになります。
 著者はさらにこう述べています。
 「幸いなことに、人々は良識を取り戻しつつある。直感的な理解も、幼稚だとか妄想だとか言って簡単に片付けられなくなってきた。私たちは、正規のルートとは違うところから伝えられる情報にも耳を傾け始めた。この本は、そうした情報の一つだ」(347頁)
 そうなんです。わかる人にはわかることですが、その「わかる人」は確かに増えてきているような気がします。しかし、象がこんなにスピリチュアルで知的な生き物だったとは本当にびっくりです。
 それにしても、本書を読むきっかけになったのは福岡伸一の『動的平衡』ですが、そこに載っていた白い象と鯨の対話する若冲の絵はどういう経緯で描かれたのでしょうね。若冲の才能もとんでもなくすごいですが、その情報源は中国やインドでしょうか。

(福岡伸一・髙橋紀子訳木楽舎2009年1800円+税)

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