池谷裕二『単純な脳、複雑な「私」 または自分を使い回しながら進化した脳をめぐる4つの講義』
脳科学というと、脱税でNHKを降板した茂木健一郎の語りを通じてしか知りませんでしたが、この本では最先端の脳科学の様子がわかります。様々な学問を横断しつつ、かなりスリリングな展開が見られるようです。
本書は高校生対象の講演をもとに作られていて、内容も具体的でわかりやすいのですが、同時に著者の優しい人柄も感じられて、実にいい感じの本に仕上がっています。こんな感じで高度なことをわかりやすく書けたらいいなあと思いますが、おそらくやってみると簡単なことではないはずです。そうして最後には複雑系や自己組織化の話まで持っていくのですから、著者の力量は半端ではありません。
本書には著者が作成した動画やプログラムを見せてくれるサイトのアドレスも公開されています。読んでわかりにくいところについてはこれを見ればたちまち了解できます。というか、驚きの動画です。下記のサイトを見てみてください。
http://www.asahipress.com/brain/
これを見ると、脳が勝手に物を見えなくしたり、存在しないはずのものを作り出したりすることがよーくわかります。
本書を読んで、脳も臓器の一種だということに気付かされました。また、臓器も脳の一種であると言えそうです。臓器移植をすると、元の持ち主の持っていた記憶が移植先の人物に忽然と現れると聞きます。
それはともかく、脳は極めて精巧に出来ていると感心させられることもあれば、結構ずさんで欠陥だらけのものを、これまでだましだまし使ってきたという側面もあるわけです。そして、いずれにしてもこの不思議な脳というものの働き方の癖を知っておいて損はないと思います。
この癖を知ることで「自分は今こんな状態にあって現実を見るバランスが悪くなっている」と自覚することができ、少しは脳の働きの制約から自由になれると思います。もちろん簡単には行かないのですが、人が自身の文化の枠組みにとらわれている場合と似て、これは人類の永遠の課題のような気がします。
(朝日出版社2009年1700円+税)
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