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2010年4月28日 (水)

ディーノ・ブッツァーティ『石の幻影』大久保憲子訳

 表題作「石の幻影」は中編小説で、その他五編は短編です。その五編のうち四編は文庫の『神を見た犬』のそれと重なっています。で、何と言っても「石の幻影」です。
 これは神学的な創造力の賜物ではないかと感じました。神を冒涜する寸前のところまで話が展開します。幻想文学とかSFといったものとは一線を画しています。
 というか、神学的創造力はSFに信仰という骨組みを与えて、もっと遠くへと読者を連れて行ってくれます。C・S・ルイスのSF三部作がこれに近いような気がします。
 と、こう書くと宗教嫌いでかつ宗教音痴の人は、そんな作品はオリジナリティに欠けるのではないかと思うかもしれませんが、実はその反対にオリジナリティの固まりのような小説世界が展開されています。
 この立体的な世界観は「世界を創る存在」という視点があるからこそ可能になるのではないかと考えたりしています。それは世界が何となく出来上がってしまう世界とはずいぶん違うものです。
 でもまあ、とにかく読んで滅法面白いことは請け合います。こういう小説を書けると人生が楽しくなるのではないかという気がします。

 ところで、短編の訳は近年の文庫の方で多少言葉遣いが改められているので、そちらを読んだ方が翻訳者経由で作者の意図がよりよく伝わると思います。

(河出書房新社1998年1800円税別)

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