ラッタウット・ラープチャルーンサップ『観光』古屋美登里訳
大変な筆力のあるタイ出身の作家の短編集です。各短編の主人公はすべて一人称の語り手であり、全部が出口のない、とことん凄惨な状況にあります。そして、そうした様々な主人公の人生の断面が鮮やかに切り取られています。それはときおり実に美しい情景でもあったりします。
正直言ってあまり楽しんで読める本ではありませんが、タイを舞台にした様々な人々に自己観入することができるという点では何だか大変勉強になるところのある作品です。ちょっと林真理子の小説みたいなところがあります。ただし本書は鬱陶しい悪夢を見たような読後感なのですが。
昔知り合った日本人のバックパッカーが「タイは心のふるさとです」と言っていましたが、これを読むとあまり行きたくなくなってきました。でも、きっと色鮮やかで生命力あふれた、善悪も美醜もごちゃ混ぜになったところなのでしょう。そしてそれは日本のぼんやりしたぬるさとはまったく違うんでしょうね。
思えば今、政治状況がいろいろと大変なのもこのタイでした。この小説に出てくるような人たちがたくさん集まってくると、なるほどあんな風になるのかと、ちょっと納得させられるところがあります。ただ、背後で糸を引いている国について、大マスコミがまったく報じないのは、やっぱり自己規制をかけているのでしょう。ま、いつものことですが。
それはともかく、この作家の名前が長くてなかなか覚えられません。三つくらいに分けて何かに連想付けして覚えましょうか。
あ、それと、この翻訳も全体に読みやすくてよかったと思いますが、訳者あとがきのところで「弱冠25歳」という表現があって、またかと思いました。流行ってるんでしょうか。
(早川書房2007年1800円+税)
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