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2010年5月19日 (水)

池谷裕二『進化しすぎた脳 中高生と語る[大脳生理学]の最前線』

 新刊が面白かったので、これも取り寄せて読んでみました。これはこれでなかなかのものでした。高校生に語るというスタイルはいいですね。最前線の学問の内容だけでなく、著者の優しい人柄まで伝わってきます。
 本書でなるほどと思ったことの一つは、自己同一性を保つために神経細胞は増殖しないというところで、確かにここが変わってしまうと「自分」を生み出すもとまでが変わってしまいますからね。
 また、人の記憶が曖昧なことは臨機応変な適応力の源にもなっているという指摘は、面白い見方です。ふだんでも想像力で補ってモノを見ているのですから、生きていく上では写真のように正確に覚えることがいいというわけではなさそうです。
 さらに、複雑系を考えることで科学に新たな視点が導入されたことも、わかりやすく指摘されています。神経細胞もまた複雑系で動いていると著者は言います。ここの動きは単純なパターンしかなくても、これがたくさん集まったらどうなるかわからないわけで、そのとき脳のネットワーク全体を見なければならない(250頁)という指摘は、社会を見るときのヒントにもなるように思います。まあ、社会なんて結局脳の働きですから、あたりまえといえば言えるのですが、社会科学にとっても重要な示唆を与えてくれます。
 でも、そうした複雑な動きは脳の内なる情報のトップダウン的な処理が初めにあって可能になるというのが著者の仮説です。このあたりの考察が今後どのように展開されていくのか興味があります。
 若い人が本書を読むとみんな脳科学に進みたくなっちゃうかもしれません。現にそういう人もすでにいるみたいですし。それくらい魅力的な本です。

(講談社ブルーバックス2007年1000円税別)

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