阿部泰隆『やわらか頭の法政策 既存の発想を乗り超えて新しい法制度を設計しよう』
標題および副題通りの本です。講演が元になっている本ですから読みやすいですが、内容は充実しています。著者は法解釈学者らしからぬ柔軟な発想と想像力に富んだ人で、本当に驚かされます。定期借地権というのは著者の発想に基づくものだったのですね。初めて知りました。
本書は厚いものではありませんが、ダムを造るとかえって水が汚れるとか、さらっと書かれている重要な指摘もたくさんあって、実に勉強になります。法制度全体の実効性を経済効率性を含めて鳥瞰できるというのが著者のすごいところで、根本からすべてを見直すというのはこういう見方のことをいうのだとわかります。
13章の「泥棒に刑法を作らせるな」では「議員に歳費、定数、選挙区を決めさせるな」とあります。名古屋市の河村市長の強い味方かも。それにしても名古屋市の市会議員の年収が1600万円を超えるというのは、やはりもらいすぎでしょうね。自分たちで決めさせれば、いきおいそういうことになるわけです。
しかし、実は今まで利害関係者を交えた会議で重要な決定がなされてきたのが、わが国の政治・行政的風土だったのですから、これはこれでなかなか変わらないかもしれません。田舎だったら会議の参加者がみんな親戚だったりしますし、これに公共工事と土建業がセットでからんで身動きがとれないほど癒着してきたのが日本型土建国家複合体でした。
かつての旧ソ連の社会主義リアリズム時代のポスターには、つるはしを持った労働者なんかが出てきますが、あれは実はソ連よりも日本型社会主義をずっとよく象徴するものだったのかもしれません。ゴルバチョフが日本を世界で最もうまくいった社会主義だと評したのは、たとえ皮肉で言ったにしても炯眼でした。
今は政権交代でようやくこれにひびが入ったところですが、何だか他にもいっぱいひび割れが起こってきた感じです。このひびは修復できないところまで来ていますので、旧態に復することだけはないと思いますが、どんな形になっていくのかは予断を許しません。ただ、今日われわれが重要な歴史的転換点にいることだけは確かだと思います。
(信山社2001年700円+税)
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