ディーノ・ブッツァーティ『タタール人の砂漠』脇功訳
ブッツァーティの長編小説です。タイトル通りに13世紀のタタール人が出てくるわけではなくて、舞台は近代です。でも、辺境の国境地帯を警備する登場人物たちはタタール人が来るような気がして、ずっと警戒しているのです。
国境の砂漠地帯の要塞は平穏で時間が止まったようで、主人公は赴任してすぐに帰りたくなります。ところが、ふとそこで何かある種の居心地よさを見出して、使命感や野心と共に何年も居着いてしまうことになりますが、それは仲間たちも上官たちも同じでした。
何だかダメ企業から転職しようとして果たせないサラリーマンのような感じでもあり、私自身、他人事でないような気にさせられます。毎年、今年こそは転職しようと思っているうちに、ふと気がついたら定年がすぐそこまで来ていたりしますからね。この意味では、現実の方がずっと悪夢のようです。
さらに、その他にも様々な寓意に満ちた仕掛けが張り巡らされています。怖い小説世界です。人生における時の流れの残酷さが容赦なく迫ってきますが、主人公は最後の最後に果敢な闘いを挑みます。このとき本当の敵が誰なのかが初めてはっきりします。と、あまり語ってしまってはいけませんが、決して何も起こらない小説というわけでもないのです。
それにしてもこの作家の発想は心底からユニークだと思います。
(松籟社1992年1533円+税)
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