司馬遼太郎『空海の風景(上)』
昔買っておいたもので、読もう読もうと思っていて時間がたったら、活字の小ささが目にこたえる年齢になっていました。昔の文庫本は本当に字が小さいですね。
それはそうと、これは独特のエッセーのような文体で空海の実像に迫った快著です。ただ、著者の文章でいつも気になるのは、日本のことを「この国」と書くところで、これがなかったらもっと早くからファンになっていたと思います。
日下公人が司馬遼太郎のことを、おんぼろ戦車に乗せられて国家に殺されそうになったからではないかと言っていましたが、そうかもしれません。
そういう人ならわが国のことを「この国」と他人事のような言い方をする資格もないではないだろうと、さすがに優しい日下さんらしい見方でしたが、私もその見方をとることにして以来、司馬遼太郎に関しては、まいっか、という気になってきました。
前にも書いたことですが、もう一度書いておきます。私の師匠は決して保守的な人ではありませんでしたが、しっかり「わが国」と書く人だったので、単純な岩波知識人とは違うなと妙に感心させられたことがありました。司馬遼太郎以外はやっぱり「わが国」と言ってほしいものです。
で、本の内容はすばらしいと思います。よくもここまで調べ上げて、人情の機微を書き込む描写の鋭さは、著者の小説家としての力量が並外れたものだということがわかります。
続きは下巻の感想に書きます。もうしばらくお待ちください。
(中公文庫1978年[1994年21刷]520円)
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