司馬遼太郎『空海の風景(下)』
いやー、面白かったです。空海はもちろん、密教のことも最澄のことも、そして藤原氏の権力抗争についても手に取るようにわかります。日本史の教科書をいくら読んでもピンと来ないことは、本書で初めて生き生きとしたつながりを見せてくれるような気がします。
真言密教というのは理論だけではなくて、それに伴う行ないがいろいろと神秘的なので、今でもちょっとした異能のお坊さんがいたりするのですが、その大本締めの空海はさすがに異能の固まりのような人だったみたいで、うさんくさい雰囲気もたっぷりあります。このあたりが魅力的に見えてくるまでにはある程度年を経なければならないのかもしれません。
著者は若いころはあまり空海のことは好きではなかったと「あとがき」にも書いていますが、こんな本を書いてしまうまでの著者の思考の流れにも興味がわきます。その意味では著者のかなり長い「あとがき」も面白かったです。もっとも、ただでも小さい文庫版の活字がさらに小さくなっているのには閉口しましたが。
で、どうやら空海は著者によると「日本の歴史のなかではめずらしく思想家であった」(241頁)とのことです。確かにその思想と行動のパターンは思想家のそれです。だったら私も遅かれ早かれいずれは空海に取り組まざるをえないようです。
(中公文庫1978年、1994年20刷580円)
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