海堂尊『死因不明社会 Aiが拓く新しい医療』
医者で作家という人は少なくないと思いますが、医療問題をこれだけ作品とリンクさせて書ける人はそんなにたくさんはいないように思います。
本書は科学の啓蒙的新書シリーズ「ブルーバックス」の一冊として書かれていますが、小説の主人公の架空の対談を軸に解説がなされているという、極めてユニークな体裁を取っています。
著者は死因不明の遺体の解剖率がたったの2%しかないことと、その背景にある官僚や学会の偉いさんたちの問題をはっきりと指摘しています。いわゆる監察医制度がある自治体は東京23区、横浜市、名古屋市、大阪市、神戸市の5都市しかなく、昭和60年以前には監察医制度がおかれていた福岡市と京都市は当時の法改正によってリストから外されてしまっています。
したがって、これらの都市以外では、例えば虐待死した子供の遺体解剖については親が拒否することができるのです。水面下で殺されている児童たちが少なからずいるのではないでしょうか。また、逆に見ると、児童虐待で問題になった事件の発生地に注目すると、ほとんどこの五都市だけだったなんてことがあるのかもしれません。
著者の『チームバチスタの栄光』はベストセラーだった記憶がありますが、背景にこうした重要な社会問題への問い掛けがあったんですね。単なるミステリーではなかったようです。
厚生労働省と学会のお偉方の強力なタッグを切り崩すのは大変だと思いますが、これが医療制度改革の国民的合意形成に資することがあるとしたら、著者の作戦は見事に成功したことになるでしょう。そうなるといいですね。ワクワクします。
(講談社ブルーバックス2007年900円+税)
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