畑村洋太郎『決定学の法則』
失敗のメカニズムを明らかにして、失敗を繰り返さないよう対策を立てるのが著者のいわゆる「失敗学」ですが、失敗を糧にして何をするのかというと、人は常に何事かを決定しているのです。
つまり失敗学の先にある創造的思考のメカニズムを明らかにするのが本書のタイトルにある「決定学」というわけです。物事を決める道筋を構造的にとらえておくことで、より深く的確な決定ができるようになるというのが著者の主張です。
今までは欧米の成功例を改良して決定してきたことがらも、今日では自ら新しい領域に踏み出さなければならず、「人真似ではなく、自ら試行錯誤しながら未知のものを創造し、新しい成功例を作り出さなければならない」(17頁)からです。
決定は単純論理的な作業ではなくて、ジグソーパズルのようなものだと著者は言います。思考平面上で思考の断片をつなぎ合わせながら、行きつ戻りつそれぞれの選択肢を選ぶといった作業だからです。
面白いのは、そうやって思考の道筋を付けて行く際には、論理的思考は何の役にも立たないと著者が言っているところです。確かにジグソーパズルで一つ一つのピースをつなぎ合わせるのに論理や演繹は不要です。
論理や演繹がやってくれるのは「出来上がった道筋の正しさを評価する手助けだけ」(41頁)だからです。何だか二流の文芸評論家や学者みたいですね。そして、「決定の道筋を作り上げていく過程で『道案内』できるのは、経験と知識の積み重ねから出てきた『体感』『実感』なのです」(同頁)。
そうなんですよ。著者は実際「気」とか「山勘」なんかの重要性も認めています。これは仕事の現場のメカニズムにおいて無視できない要素です。決してオカルト的なことを言っているわけではありません。
著者の「成功のための17の経験則」には良い表現が出てきます。17全部は挙げませんが、たとえば、
・すべての決定は賭けである
・夢と志を持て
・まずは動け
・論理は後付け
・山勘にも三分の理
・人事が万事
・躊躇に得なし
・反省より「省察」せよ
などです。
で、ここにもあるとおり、結局すべての決定は賭けなので、決定しないで後悔するよりは決定して後悔したほうがいいのではないかと著者は言います。失敗しても、その失敗を糧に成功につなげていけばいいのですから。
勇気づけられる本です。
ただ、ダメ会社だと悪い「気」に覆われていて、決定以前に新鮮なアイデア自体が出てこないのではないかとも思います。失敗したら後がないし。文字通り土壇場にあるところも多いのではないでしょうか。
(文春文庫2007年524円+税)
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