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2010年7月24日 (土)

宮本延春『オール1の落ちこぼれ、教師になる』

 小中学校でかなり激しいいじめにあって、勉強が手につかないまま、成績が本当にオール1でした。中卒で就職した著者は、しかしあるとき、アインシュタインの相対性理論に接して突然学問の面白さに目覚め、働きながら夜間高校を出て名古屋大学の理学部に進学します。今は母校の教壇に立っていますが、できない子の気持ちがわかるという点で著者の右に出る先生は誰もいないでしょう。

 学校の先生はよく生徒たちに「やればできる」「最後まであきらめるな」なんて言うのですが、実際にはそう言う教師本人が自分の言葉を信じていないことが多々あるのではないでしょうか。まして、相手はオール1評価の生徒です。

 著者は「やればできる」の見本のような人ですが、それにしても、ここまで本当にやってできてしまった人が出てくると、何よりかつての著者の先生たち、特に1評価を付けた中学校の先生たちは本当にたまげたことでしょう。

 もっとも、著者は思いっきり勉強ができなかったにもかかわらず、読書が好きで、たくさんの本を読んでいましたので、素地はあったのでしょう。少林寺拳法で全国大会に出場しているくらいの人ですから、いったん物事に打ち込むと、大変な集中力を発揮するタイプの人だろうと思います。

 とはいうものの、やはりすごい努力です。まわりの人も何か手助けしないではいられなくなるくらいのオーラを本人が発していたのでしょう。学問に目覚めて努力し始めてからの著者には、いろいろな人が手をさしのべてくれます。

 著者が人生のどん底で考えたことは、人間が「生きている時間だけは平等だ。だから、何かに時間をかけて努力すれば、未知の可能性が開けるのではないだろうか」(61頁)というものです。苦労してきた著者の言葉だけに、重みがあります。

 サクセスストーリーには違いないのですが、自慢話ではなく、お説教臭くもなっていません。著者の素直な人柄が感じられます。多くの人に勇気を与えてくれる本だと思います。

(角川書店平成18年1300円税別)

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