斎藤美奈子『趣味は読書。』
ベストセラーといえば、インテリやインテリぶりたい人は読まないことが多く、読まずに批評されることもまた少なくないようです。村上春樹の『1Q84』の書評のほとんどが最後まで読まずに書かれていたことを日垣隆が指摘していましたが、文芸評論家というのはそんなものだと思っておいたほうがいいかも。
かつて著作集の月報だけを読んで林達夫論を一晩で書いた人を知っていますが、そんなインチキな仕事ぶりは実は当時からバレていました。知らぬは本人ばかりなりで幸せなことでした。
さて、本書はそんなインテリが相手にしないようなベストセラー46冊を、まさしく対極的な姿勢で真剣に読んで書かれた批評です。実際、これは慣れ合いとインチキの横行する出版界ではちょっとしたスキマ産業だったかもしれません。
ふつう、ベストセラーを買って読んでおまけに感動までしてくれるのは、ただでさえ少ない読書人口の中の「善良な読者」ですが、そこを自ら善良な読者たる「資質をまったく欠いている」(354頁)と言っている著者が本気で批評していくのですから、一面では恐ろしい仕上がりの本になっています。
例えば樋口裕一『頭がいい人、悪い人の話し方』では、「この論旨のぬるさ、話の運びのたるさ。いっちゃなんだが、この本自体が『頭が悪い人の話し方』の事例のようだ」(80頁)という具合です。
しかしながら、悪口三昧のようでいて、著者はベストセラーのいいところもきっちりと指摘しています。批評の姿勢は常に読者の側に立っていて信頼できます。この批評眼をもってすれば、ベストセラーではなくても、本屋を損させないくらいの、「善良な読者」を無視しない良書を書けるような気がしてきます。見当違いの感想ですが、そこはかとなくやる気が出てきました。
(ちくま文庫2007年780円+税)
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