武田百合子著、武田花写真『遊覧日記』
著者の鋭い観察に基づく独特の文体は、ときに凝縮された美しさを見せてくれるかと思うと、そこはかとなく怖い世界を暗示するようなところもあります。とにかく何か文章を書けばそれがそのまま文学になっているような人です。才能でしょうね。
それはたとえばこんな感じです。
「いやに彫りが深くて色白の、元美貌、そのため却って、お金のなさそうな人にみえる老紳士は、役者のような声でそうしゃべると、観音様の方へ歩いて行った。足がわるいらしい。片方の肢が義足らしい」(34頁)
何だかこの数行だけでいろんなものを感じさせられます。
本書では14章の「あの頃」が、終戦直後の思い出と御茶ノ水橋や聖橋の情景が出てきて、特にこの界隈は学生時代に馴染みがあるので、懐かしい思いで読みました。終戦直後のことはもちろん知りませんが、そんな感じだったのかと想像がつくのは楽しいものです。一人娘の花さんの撮った写真も、文章との微妙な距離をとりながら、二人で訪れた場所のいい雰囲気を伝えています。
また『富士日記』や『犬が星見た』を読み返そうかなという気になりました。
(ちくま文庫1993年520円+税)
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