空海著、宮坂宥勝監修『空海コレクション2』
本巻には『即身成仏義』『声字実相義』『吽字義』『般若心経秘鍵』『請来目録』が収録されています。空海の立場がよくわかる編集です。
とにかく密教の奥義を極めると即身成仏するとのことなのですが、そのためにはお経を読むだけではなく、師匠から授戒を受け、修行しなければなりません。またお経も、論理では伝えられない世界を文字や図像の解釈を通じて暗示しようとする世界なので、頭で「わかる」というものではありません。
したがって、いわゆる阿吽の呼吸の「吽」の字にすべてが含まれると説かれても、それはわかるものではありません。ただ、曼荼羅のける悟りの境地の解釈は、華やかなイメージに彩られていて、総天然色の鮮やかな世界が広がるのも確かです。
思想家としての空海がどれくらいすごいのかは、正直言ってよくわかりません。宗教と思想が一体になっているため、たとえば本山博を、でなければ美輪明宏や江原啓之といった人びとを思想家としてどう評価するかというような感じになります。
それでも、生きとし生けるものは「この身このままで仏であり得る」(125頁)というのは、現状を思いっきり肯定する日本的思想の美点がよく現れていると思います。空海の有名な言葉、「草木また成ず 何に況んや有情をや」も本書の259頁にあります。そして、さらにもっと有名なのは、
五大に皆響き有り
十界に言語を具す
六塵悉く文字なり
法身は是れ実相なり
という偈頌です。さすがにこれは格好いい表現です。わが師匠の中村雄二郎先生もお気に入りでした。確かにこれは汎リズム論に通じますからね。ただ、第三句にはさらに解説が偈頌として展開されていて、このあたりから訳が分からなくなってきます(「随縁」とか仏教哲学にとって根本的な問題も書かれていますが、そのあたりの深いところは真言宗のお坊さんならわかるのでしょう)。
しかし、何より一番戸惑うのは、最後の第四句が解釈がなされないまま終わっているところです。「えーっ」て感じです。このあたりざっくばらんで、かえっていいのかもしれません。色塵(物質)について、すでに解釈しきったから十分だという感じだったのでしょうか。
いずれにしても「悉く文字」だと言われてわかったようなわからないような気がしますが、曼荼羅を見ていると意味を持ってくるのかもしれません。神秘主義的ですが、ここが別世界への入り口になっているのでしょう。
こうやってほとんどすべての議論や思想を学んだ末の考えが、「そのまんまでOK。成仏できるよ」ということになると、戸惑わないでもないのですが、やはりありがたいことかもしれません。
明るい思想です。次は『十住心論』にチャレンジします。
(ちくま学芸文庫2004年1500円+税)
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