空海『三教指帰』加藤純隆・加藤精一訳
放蕩息子を改心させようとして、最初に儒者が、次に道教の道士が説得を試み、押っ取り刀で登場して息子を納得させたのが仏教者だったという、戯曲仕立ての不思議な本です。この芝居っ気は相当のものです。プロパガンダっぽくならない効用があります。
とりわけ後半に登場する賦(詩)は訳で読んでも鮮やかなイメージが呼び起こされます。原文の訓み下し文も実に調子が良くて、空海の詞藻の豊かさが窺われます。ちょっと格好良すぎて危なっかしい感じもしますが、若さと相俟ってのことでもあるのでしょう。
ただ、いつものことながら空海の本は、ポイントとなるべき仏教の中心思想が「これ」という感じで表現を与えられているわけではないので、本当にわかろうとするなら、密教の修業をするべきなのでしょう。その点では普通の思想家の本とは異なります。注意が必要というほどではありませんが、常識の範囲でそう考えておくのが本書の自然な読み方だという気がします。
本書は空海の略伝や解題も丁寧に書かれていて有益です。一家に一冊置いておきたい本です。
(角川ソフィア文庫平成19年667円税別)
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