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2010年8月25日 (水)

米原万里『終生ヒトのオスは飼わず』

無類の猫好き、犬好きだった著者の飼育日誌と自伝的エッセーです。それにしても可愛い犬猫たちを残して先に逝ってしまうことになるとは、著者もさぞかし心残りだったことでしょう。

ヒトのオスも飼っておけば、また新たな展開があったことでしょうに。ファンとしてはそちらのことも残念な気がします。ただし、ヘンなオスだったらかえって命を縮めることもあったかもしれませんが。

本書に登場する犬猫たちはどれも個性的で愛らしく、写真が載っていることも手伝って、犬猫好きにはたまりません。

著者の目撃した猫の生態で、猫の「円卓会議」というのが本当にあることがわかりました。エリオットの「キャッツ」みたいなことは実はかなり猫好きな詩人の想像力だけでなく、観察に基づいてもいたのかもしれません。それにしてもどんな情報を交換しているのでしょうね。

犬猫についてだけでなく、米原家のユニークなご両親や祖父の話も面白かったです。戦前からの共産党員として16年間「地下に潜っていた」父親が、家の防空壕に16年いたのだと思い込んでいた著者の少女時代のエピソードは笑えます。

また、東京外語大学のロシア語学科出身者は成績順に1.外務省、2.マスコミ、3.商社の順序に就職していくそうですが、20年ほど経過するとロシア語力という点でこの順序がきれいに逆転するという話は興味深かったです。

コミュニケーションの切実さに比例するのではないかと著者は言いますが、外務省なんかが一番ぬるい仕事をしているということにもなりそうです。学校時代の成績はいつまでももたないということでもあるのでしょう。

結局はきっちりと勉強し続けた人が勝つわけですが、仕事をし始めてからが勝負だよというたとえ話として、授業でも使わせてもらうことにします。

大学入試や卒業での成績、あるいは司法試験や公務員試験の成績が一生ついて回るといった世界もありますが、現場での実力は現場でしか養えません。そのあたりがもっと風通しがよくなると、本当に優秀な人たちが抱える閉塞感が取り払われて、多少なりとも雰囲気が明るくなるのではないでしょうか。

(文春文庫2010年495円+税)

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