内田樹『街場のメディア論』
いい本でした。内田先生絶好調という感じです。最近『若者よ、マルクスを読もう』という本を出されたわけも、本書を読むとわかる気がします。市場原理にどっぷりつかると、メディアも教育も医療も壊滅的な打撃をこうむるという現状があるからです。
市場の論理におけるお客様はとして、あるいはモンスターペアレントとして、あるいはキレやすい学生として、どんどん傍若無人になっていくことが宿命づけられているからです。
ある病院では「患者さま」と呼ぶようになってから、入院患者が院内規則を守らなくなり、ナースに暴言を吐くようになり、入院費を踏み倒すようになったそうです(77頁)。患者さまは「消費者的にふるまうことを義務づけられる」(78頁)からだと著者は言います。
学校教育では、いかに学習努力をしないで「試験のハイスコアや、見栄えのいい最終学歴を手に入れるか」(120頁)ということが賢い消費者としてのふるまいになるわけです。なるほど学力が低下するのはゆとり教育だけの問題ではなさそうです。
実際、こうした市場原理主義を根拠とする新自由主義なんかは、マルクスの視点からでないと根本的には批判できないところがあるのかもしれません。そういえば、K.ポランニーなんかはマルクスの影響の下に、市場社会を何でも潰してしまう「悪魔の挽き臼」と呼んでいました。
著者にはマルクスの他に、フロイト、ラカン、レヴィ=ストロースといった20世紀の思想家の著作を読み込んで、ユニークな考察を展開しています。それはいうまでもなく著者の思想にほかならないのですが、それは著者が思想密輸入業者ではなくて、一流の思想家だからこそできることなのです。
著者には威張ったところがありません。また、決してわかりやすい主張ばかりではないのですが、文章もわかりやすいです。一流の人はそうなんですよね。
(光文社新書2010年740円+税)

