斉藤美奈子『文学的商品学』
30年ほど前のことですが、小津安二郎の映画が国立近代美術館フィルムセンターで連続上演されていたとき、毎日足繁く通って、かなりの作品を観たものです。そのとき、同じ頃に撮影された映画の小物が共通していたりするのに気がついて、たとえば緑色のホウロウびきのヤカンなんかが妙に印象に残った記憶があります。
映画はともかく、作品のテーマに関わるものではないところの描写もまた楽しめてしまうというのが、著者の目の付け所のユニークなところです。各章のタイトルだけでも中身が想像できます。
たとえば「アパレル泣かせの青春小説」「ファッション音痴の風俗小説」「とばす! オートバイ文学」「人生劇場としての野球小説」といった具合です。渡辺淳一の『失楽園』なんてのは著者のファッション音痴度があからさまになって、無様さが引き立ちます。
著者は辛口の批評ばかりではなくて、ほめるべきはきっちりほめていて公平な感じです。要するにしっかりと読んで読者の立場から書いているという当たり前のことが、できていない人が多いだけに、新鮮なのです。評論家や学者でも勉強不足の人は山ほどいて、読まずに批評するとは以前も書きましたが、そんな人は一見描き方は派手ですが、結局世評にしたがっておけばいいだろうという安易な評価しかしないことが多いようです。
本書で紹介された本で著者の評価が高く、読んでみたいと思ったのは、清水義範『12皿の特別料理』、浅田次郎『プリズンホテル』、町田康『夫婦茶碗』、ビートたけし『草野球の神様』などです。今後の読書リストに入れておきます。
(文春文庫2008年600円+税)
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- ドイツ語で読む珠玉の短編(2026.06.23)
- 山本七平『小林秀雄の流儀』(2019.07.28)
- 田中圭一『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』(2017.02.20)
- 天外伺朗『宇宙の根っこにつながる生き方 そのしくみを知れば人生が変わる』(2017.02.19)
- 柴田昌治『「できる人」が会社を滅ぼす』(2016.12.30)
この記事へのコメントは終了しました。


コメント