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2010年9月13日 (月)

ニーチェ『超訳 ニーチェの言葉』白取春彦編訳

ニーチェはそもそもアフォリズム体質なので、こうして処世訓のような文章を集めると、なかなかいい感じになります。ニーチェをドイツ語で読むと調子が良くて格好いいんだ、と独分出身の友人が言っていましたが、そうなのかもしれません。

若い頃読んだ『悲劇の誕生』なんかは怨念がこもった著作だったような印象がありましたが、習俗観察者としてのニーチェは、意外にリラックスした雰囲気をたたえながらも、あらゆる人間的な事象に関して神経を細かく行き届かせています。ときにはフロイトに先んじて精神分析的な洞察も見られて、かなり興味深い内容です。

本書はそうしたニーチェの美点を集めて読みやすい日本語に訳しています。本屋で平積みになっているようですのでそれなりに売れているのだと思います。編集の妙です。それ以前に企画の勝利かも。

気に入った表現をいくつか挙げておきます。
「良い友達関係は、良い結婚を続けていく基礎にもなる」(84頁)
「独創的な人間の特徴の一つは、すでにみんなの目の前にあるのにまだ気づかれておらず名前さえ持たないものを見る視力を持ち、さらにそれに名称を新しく与えることができる、ということだ」(117頁)
「シャープでありながら鈍くさいところもあることによって愛嬌があるように見られて人に好かれるようになるし、誰かが手伝ってくれたり味方になる余地も出てくる」(126頁)

実際、なるほどそうだよねーって警句や教訓が集められていますが、ひとつ気になるのは他人に対する「感謝」の気持ちの重要性に触れられたものが見当たらないことです。このあたりがニーチェが現実にはあまり恵まれていたとは見えない人生を送ったことと関係しているのではないかと、ちょっと思ったりもしています。

ニーチェは他人のことも自分のことも厭になるくらいよく見えているの人なのですが、超越的な存在に感謝するという心は薄かったのかもしれません。でも、本当は超越者は他人の中にも自分の中にもいて、それぞれに付き合っていかなければいけないんですけどね。

G・K・チェスタトンがニーチェを揶揄するのはこの点に関係しているのでしょう。確か「柔らかい心をもつことができない者は、柔らかい脳をもつことになるのである」(『正統とは何か』)というようなことを言っていました。ちょっと無茶な言い方ですが、当たっているところがあります。

とはいえ、本書を読む限り、ニーチェが「柔らかい心」をもっていたことは確認できましたが、その心は決して強くはなかったのだろうなと感じました。おそらくはかなり傷つきやすかったのだろうと思います。(その点では、チェスタトンはカトリックということもありますが、強くて柔らかい心をもっていましたね。ニーチェの対極にいる人です。)

いずれにしても本書は、ニーチェの生の哲学者としての積極的な側面がわかる本としておすすめの一冊です。

(ディスカヴァー2007年1785円税込)

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