奥田英朗『マドンナ』
以前、著者の『ガール』を読んで、ここまで女性の気持ちに入りこめるのはすごいなと思ったのですが、それを家内が読むと「あまりにも等身大の女性が出てきていい感じがしなかった」と言っていたので、何となく気になってはいました。
この小説は今度は中年男が主人公で、好みのタイプの女性の部下が配属されて片想いでオロオロしてしまったりします。表題作のマドンナはそんな情けない話なので、他の短編もそうかと思ったら、そうではなくて、会社人間の情けない生態と、分かっていながら色々と気を回しすぎてかえってうまくいかない中年男性の心理がよーく描かれていて、『ガール』の男版という感じです。
なるほど家内が言っていたことが、男女をひっくり返されてみるとちょっとわかる気がします。主人公がちょっと小っ恥ずかしいことまでやってくれるのですが、私自身、全然思い当たるふしがないなんてこともまた、あるわけがないのでした。おそるべき自己貫入小説です。
主人公は気が優しくて神経が細かいのですが、ストレートに気持ちを出せないわが国の中年男の典型で、結局部下をかばって上司と取っ組み合ってしまったりしてしまう損な役回りだったりします。また、各短編に必ず対立が喧嘩になるシーンが盛り込まれていて、著者は意識してそういうパターンにしているようです。
でも、お話全体は最終的には緊張が溶けてホンワカさせられたり、ほろりとさせられたりで、やっぱり奥田ワールドです。上手いなあと簡単させられますし、このいい読後感があるからまた読んでしまうのです。
本書はいわゆる会社人間の話ですが、うんざりするようないやーな人間も当然出てきて、そうそう、うちの職場にもいるなあ、あるいはいたなあって感じです。だんだんそういう典型的な出世主義者や絵に書いたような露骨な権力志向タイプはいなくなってきているようにも見えますが、組織で働くからにはそういう人間は絶対出てきます。一見スマートなふりをしているだけで、言いかえれば、皆エリート官僚みたいな演技をするようになっているだけのことでしょうね。
(講談社文庫2005年590円)
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