A・R・ウォーレス『マレー諸島 上』新妻昭夫訳
松本道介が絶賛していたので読んでみました。確かにみずみずしい感性の紀行文学として読むことができます。何にでも興味を持って採集し、記録するという博物学的情熱の見本のような人でもあります。じっくりものを見てその様子を描き出す力にはあらためて驚かされます。
かのダーウィンはウォーレスに随分気をつかった手紙を残しているそうですが、これだけ鋭い観察眼と思考力を持っている学者は他にいなかったのだろうと思います。進化論の事実にも気がついていたウォーレスですが、ダーウィンからの連名で発表するという申し出には首を縦に振らなかったそうです。
ウォーレス自身は理論の構築ということに何の関心も持たなかった人のようです。そんなことより自然を見ようと思っていた節があります。そして、そんな態度の人だからこそ、本書のような描写が可能になるのでしょう。
ただ、本巻前半のオランウータン狩りの様子は、対象が人間に近い生き物だけに、残酷さにうんざりさせられます。このあたりの獲物に対する容赦のなさは狩猟民族の末裔だけのことはあると感じました。そして、ついついカリブの島々の1800万人の原住民たち(現在0人)やオーストラリアのかつて200万人いたアボリジニ(現在30万人)のことを連想してしまいます。
アボリジニ狩りなんてのはこんなふうに獲物を毎日仕留めたという記録が残っているくらいですから。日本人は獲物にならなくてよかったですね。もっとも、原爆は落とされましたが。
今日立ち読みした週刊新潮の高山正之の連載記事には、エノラ・ゲイが、一旦空襲警報を出させておき、何も投下せずに広島上空を通過し、警報が解除になって、人びとが防空壕から出てい頃合いを見計らって原爆を投下したことが書かれていました。
まあ、勝手な連想ですが、やはりオランウータン狩りのところはショッキングでした。あれだけ反西洋的なものの見方をする松本道介でも、ここのところは引っかからなかったのでしょうか。私はかなり引っかかります。
下巻はちょっと時間をおいてから読むつもりです。
(ちくま学芸文庫1993年1600円)
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- ドイツ語で読む珠玉の短編(2026.06.23)
- 山本七平『小林秀雄の流儀』(2019.07.28)
- 田中圭一『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』(2017.02.20)
- 天外伺朗『宇宙の根っこにつながる生き方 そのしくみを知れば人生が変わる』(2017.02.19)
- 柴田昌治『「できる人」が会社を滅ぼす』(2016.12.30)
この記事へのコメントは終了しました。


コメント