長谷川三千子『正義の喪失 反時代的考察』
この本は買ったまま本棚に眠っていましたが、ふとその存在を思い出して読みました。今まで忘れていたのは損失だったかも、と悔やまれる内容でしたが、もっとずっと思い出さなかったとしたら、今読めたことは幸せだったとむしろ思い直した次第です。
産経新聞正論欄での著者のサンデル批判のなかに正義についての独特の議論があったので、本書を思い出したのですが、その点については正解でした。正義とは「不正の処罰」なんです(61頁)。本当の正義とは生ぬるい共同体的正義感情ではないということです。何よりこういうことをスパッと言えるところがすごいのです。
勇気と読解能力と思考力がないと、こういうふうには言えません。そしてこの点でそのいずれもない学者や評論家が実に多いことにあらためて気づかされます。私もそうならないように精進します。
ところでほんしょの第五章は「ボーダーレス・エコノミー批判」ということで、近代市場経済の仮借のない暴力性が見事に描き出されています。スミスもマルクスもある程度気がついていながら道をそれてしまった市場経済とは「力」と「欲望」のみを座標軸とするまったく新しいヒエラルキー(238頁)という理解が示されています。
なるほどそうだったのか。経済学者が大概ダメだということもこれでわかります。これで今まで自分がぼんやりと考えてきたことのうちのかなりの部分がすっきりとしました。もっともまだまだ自分でもしっかり考えなければいけないはたくさんあるのですが、少なくとも一歩進むことができた気がします。
本書はこのほか自然法思想家のスアレスやビトリアの著作について教えられました。日本人による研究書が出ているようなので探してみます。
(PHP文庫2003年648円+税)

