マイケル・サンデル『これから「正義」の話をしよう』鬼澤忍訳
ハーバード大学の講義のテーマに即して書かれた正義論です。テレビで放映されたので有名になりました。特に一人を殺すか5人を殺すかという状況に置かれたときあなたならどうするか、という最初の問題設定から学生を引きこんでいくところがなかなか刺激的で、面白そうでした。
本書もその問題から入って、いつのまにかベンサムやカントやロールズ、あるいはアリストテレスといったビッグネームの理論も取り上げて考えさせたりするところが実にうまく構成されています。翻訳もまあまあ読みやすいです。3箇所くらい引っかかるところがありましたが、上出来でしょう。
本書は講義の実況中継ではなくて、本として書かれたものですが、長年の学生たちの反応や議論が反映されているようで、著者の開かれた議論への姿勢がうかがわれて好感がもてます。
わが国では法哲学がこの正義論の分野にあたるのですが、この業界はふだんから他を圧倒しようということばかり考えているせいか、内容はさておき、こんなにいい感じで議論できる人は残念ながら見当たりません。
かつては畏友小林和之氏(ちくま新書『おろか者の正義論』の著者)がこの点で稀有な例外でしたが、最近はこの業界に見切りをつけられたのかもしれません。近いうちに連絡をとってみましょう。
さて、本書ですが、結局正義の根拠は社会の中にあるというもので、これを一般にはコミュニタリアニズム(共同体主義)と読んだりしていますが、確かに正義を論理的、理性的に求めていっても非合理的で共同体的な物語のようなものが残ります。
しかし、問題はさらにその先にあります。社会とか共同体というものの根拠がさらに控えているのではないかと思われるからです。それはおそらくキリスト教的世界観の根底にあるものだと日本人の私は考えるのですが、どうでしょうか。
この答えを出しているのは内村鑑三です。私にとってはサンデルより内村の方が圧倒的に面白く、刺激的です。知りたい人は拙著『人と人びと』(2003年いしずえ)をどうぞ。
(早川書房2010年2300円+税)
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