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2010年10月18日 (月)

長谷川三千子『バベルの謎 ヤハウィストの冒険』

すごい本です。旧約聖書のバベルの塔の話をめぐる謎を解読した本です。驚くべきテキスト読解力です。本書は刊行当時世評が高かかった本ですが、今まで何とはなしに積ん読にしていました。

その本書を紐解くきっかけになったのは、先週の産経新聞の「正論」欄で著者のサンデル批判です。その中で、著者が正義の過酷で峻厳な側面を強調していることに感心して、その一端が本書の中に窺われはしないかと思って読み始めました。

実際には、過酷で峻厳な旧約の神はここでは別の形で、それも思ってもいない形で存在していました。ユダヤ民族を祝っているのだか呪っているのだかわからないような、しかし、圧倒的な影響力を行使する神です。

もちろんそうした旧約聖書にも著者がいるわけで、メソポタミアの神話から借用したりしながら、その旧約聖書の著者(たち)が何を元にどういう思想を綴ったのかということを冷静に分析して見せたのが本書です。

本書のタイトルに謎とか冒険という言葉が出てくるのも決して看板倒れではありません。ここでネタをばらすわけにはいきませんが、最後の最後までスリリングな展開で、最後にその謎も解けます。

著者は聖書学の先行研究も活用しながら、しかし、鋭い論理的考察力によりユニークでかつ説得力のある創世記解釈を示してくれます。江戸時代の富永仲基が今日に生まれ変わったような才能です。

本書の帯に「和辻哲郎文化賞受賞」と書かれていますが、著者は和辻哲郎を遙かに凌いでいると思います。英語に翻訳して世界中の人びとに―それもとりわけユダヤ人たちに―是非とも読んでもらいたい本です。

(中央公論社1996年2300円+税)

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