ジョン・ロールズ『公正としての正義 再説』田中成明・亀本洋・平井亮輔訳
『正義論』の新訳が出る前に読んでおこうと思って読みました。法哲学=政治哲学が哲学ではなくて一種の社会技術だということがわかります。哲学の魅力が形而上学にあるとしたら、ロールズにはそんなものはありません。また、数学的な厳密な論証というものもありません。そうしたものを排除して、価値観を含んだあいまいな議論が成り立つ日常世界のあり方に著者の関心があります。
いろんな哲学や信仰を持った人が集まって、どのあたりの相互理解で仲違いせずに生きていけるかということを追求するのがロールズの真骨頂だと思います。
ロールズは大変頭がいいだけでなく、心優しい人なのだろうと思います。アメリカの実情に合わせて可能な限り現実的な理論であろうとしています。微妙な議論の体系性にも精一杯気をつかっています。
ただ、個人的には私はこんな頭の使い方はしたくありません。形而上的なことに触れない頭の使い方は性に合わないからです。現実的な事柄もその背景には必ず形而上的世界が控えているわけで、その世界との交信がない限り、生きる勇気と喜びが湧いてこないからです。
ロールズが基礎的な直感的道徳というものを認める点では私も大いに共感できるのですが、それをもっと詰めて考えるのではなくて、あくまでそうしたものから派生してくる実現可能な議論として、権力が人びととどのような折り合いをつけるべきか、と考えるのがロールズの発想です。
それはそれで、ロールズの気持ちも方法もわからなくはないのですが、読者としては常に満たされない思いを抱いてしまいます。しかしこれは、あくまで趣味人というか読書人としての私の感想です。
本書が政治哲学・法哲学史上の金字塔的業績であることは確かです。翻訳も明解で、日本語的にも実にきっちりしています。『正義論』も翻訳者がしっかりしてそうなので、出たら読まなくては。原書で読む気はしません。かなりめんどくさそうです。よく翻訳してくれました。その意味でも感謝です。
(岩波書店2004年3600円+税)
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