ダン・アリエリー『不合理だからすべてがうまくいく 行動経済学で「人を動かす」』櫻井祐子訳
人間には不合理な傾向がたくさんあり、それに気がつかないまま「動かされている」ことがしばしばです。著者はその不合理的傾向を知ることで、人は自らを知り、制御できるようになると考えています。
著者は全身にとんでもない火傷を負い、そこからのつらいリハビリを経て、社会生活に復帰してからも容貌のコンプレックスに悩んだ中で、行動経済学の単純に幸せな世界観とはひと味も二味も異なる観察眼を養ってきました。その成果が前作と同様、本署にも十分活かされています。
著者は教室での心理実験でも様々な工夫を凝らして、現実の状況を反映するように設定されています。その結果として実に納得のいく考察が展開されることになりますが、通説とはずいぶん異なる見解も多々含まれています。本書がベストセラーになることで、同業者からは相当やっかみも受け、露骨に嫌われたりもするのではないでしょうか。ご苦労が偲ばれます。
本署には人間の様々な不合理な傾向が取り扱われていますが、個人的にはチンパンジーにも見られる報復の本能あるいは喜びについて、最も興味を惹かれました。正義論もここから書かれなければぬるいものになってしまいそうです。
復讐は必ずしもマイナスのエネルギーになるのではなくて、そこから始まった成功譚として、著者はディズニーをクビになったところから成功を収めた映画プロデューサー、ジェフリー・カッツェンバーグの例を挙げています。大ヒット作『シュレック』を制作した人です。悪者が元上司(ディズニーの社長)を思わせる顔をしているのだそうです。著者は言います。
「こうしてシュレックの背景を知ったからには、ぜひもう一度映画を見て、復讐がいかに建設的(でおもしろい)かを味わってほしい」(208頁)
なるほど、見てみることにします。
(早川書房2010年1900円+税)
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