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2010年12月 8日 (水)

ロナルド・ドゥウォーキン『裁判の正義』

自身に対する批判に答えた本です。もともとH・L・A・ハートの法実証主義を批判して出てきて、批判の応酬の中で理論的展開を遂げてきた人ですから、いつの間にか書く前から防御的スタンスを取るのがうまくなってしまったのかもしれません。

もちろん守勢に入っていることがわかるとかえって集中砲火を浴びるので、書き方は独特なものになります。テクストは他人の理論を批判する言葉で埋め尽くされていて、畢生の理論書とされる『法の帝国』なんかは比喩的な道具立てが加わるので、自身の理論的立場について言及する分量がやたらと少なくなります。

本書でも350頁くらいの分量の中で自身の立場に直接触れたところは8箇所で、それぞれ数行ずつの記述にとどまります。一体どういうストイックな饒舌なんだろうと思ってしまいます。

ドゥウォーキン本人の立場は極めて常識的であると同時に、だからこそ正当に法律的ですので、私は何一つ反対しませんが、本人はその立場を一からわかりやすく書こうという意志は毛頭ないようです。「私が書いてあげましょうか」って言いたくなるくらいです。

 実際、拙著『法と道徳』はドゥウォーキンには触れていませんが、基本的立場は一緒だなあと、こうして読んでみてようやくわかりました。これは当然私が偉いのではありませんが、ドゥウォーキンが偉いのでもなくて、法というものがそんなものだからです。

だからかもしれませんが、論敵によるドゥウォーキン批判はえげつないだけでなく、かなり的外れなものが多いようです。なかなか尻尾を出さないように見えるドゥウォーキンにいらだっている感じです。このやり方だと確かに論争には勝つことができそうです。

ドゥウォーキンの論争の姿勢が防御的というのはそういう意味です。欧米の学会の批判の応酬も結構ろくでもないものがあることはわかりますが、もっとストレートに自身の立場を一から積み上げたテクストを書いてくれた方が、本人の理論的展開にとっても好結果を生むと思いますが、どうでしょう。

本書では最後の章でロールズの理論にかなり好意的な態度を見せていますが、そのあたりは納得がいきます。ロールズの新訳『正義論』を読むのにもいいきっかけとなります。

翻訳は「統一性」を「一貫性」、「ハーキュリーズ」を「ヘラクレス」とわかりやすくなるように工夫されていて好感が持てました。全体に読みやすかったです。

(木鐸社2009年4,500円+税)

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