マルティン・ルター『現世の主権について 他二篇』吉村善夫訳
国家は暴力装置だと元官房長官がどこかで語っていましたが、領主や封建諸侯の私刑に過ぎなかった中世の刑法を国家に集約する理論が本書です。近代国家形成のきっかけになるとも言われる重要な理論です。
ルターの文章は情熱的で説得力に富んでいます。キリスト者も正義のために剣をとるべきだと力説する気持ちはわかります。領国全体が危機に瀕したときには戦争しなければならないと明言します。岩波書店がこんな日本国憲法9条の精神に反する本を出して大丈夫なの?って感じもするくらいです。きっと、ドイツ人の話だからいいのでしょう。
とはいえ、「このような戦争に於いては、敵を征服するまで、安んじて戦争の慣わし通りに殺戮し強奪し放火しあらゆる災害を敵に加えることが、キリスト教的であり、愛の行為なのである」(77頁)とあると、やはり驚かないわけにはいきません。これでは後のドイツの「30年戦争」の陰惨な殺戮を奨励しているようなものではないでしょうか。
ルターは旧約のカナンやエリコやアイの戦闘や殺戮を引き合いに出して議論を進めますが、まるで当時の呪いが近代になって復活したような感じです。
もっとも、今でもイラクやアフガンあるいはアンゴラなどではこんなことが続いていますし、このルターの正義感覚は今日の国際政治の舞台では相変わらず常識であり続けていると考えておいたほうがいいでしょう。
(岩波文庫1996年520円税込)
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