木田元『哲学は人生の役に立つのか』
本書にも『闇屋になりそこねた哲学者』や『私の読書遍歴』と同じ自伝的内容が含まれています。でも、またか、というのではなくて、いつも聞くのを楽しみにしているご隠居の昔話という感じかもしれません。
それでも本書では、ハイデガーとアーレントの生涯を通じての不倫の話題とか、哲学者の余話や、資本や技術が元来人間のコントロールを外れる性質を持っていることなどが語られていて新鮮でした。
また、ヘーゲル『精神現象学』の秘伝的な読み方というのも面白かったです。確かにあれは以前から読みながら男女の恋愛関係とかが暗示されているような気がしていたのですが、あながち的外れな読み方でもなかったようです。
著者は稀代の読み手として次のようなことを言っています。
「深く考えるにも、深く感じるにも、それなりの訓練が必要なのです。深く感じることができるようになるためには、深く感じることのできた詩人や作家の作品を読んで、その感じ方に共感し、学びとる必要があります。深く考えることができるようになるためにも、よく考えて書かれた本を、はじめの一行から最後の一行まで丹念に読んで、その思考を追いかけながら学びとる訓練をしなければならないのです」(187−188頁)
同感です。これができていないインテリは一見華々しいときがあっても、いずれ実際息切れしてしまいますもんね。著者は80才にして今なお現役で生産的な仕事をしているのですから、本当にすごいことです。少しでもあやかりたいものです。
(PHP新書2008年740円+税)
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