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2011年3月15日 (火)

柳澤桂子『生と死が創るもの』

美しく正確な文章で、しみじみとした味わいのあるエッセー集です。生命という神秘的な現象にあらためて感動させられます。生が死で終わるのは当たり前ですが、アポトーシスなんかの現象は、死が生をかたちづくり、支えているということでもあるのですね。例えば手は、指の間の肉が死んでくれない限り、そのかたちにならないわけです。

著者自身ほぼ寝たきりの状態で何冊も本を出版されています。本当は文章を書くのが好きではなかったと述べていますが、とんでもない名文家です。もちろんそれだけの努力を重ねられて、今の境地を切り開かれたのですが、その点で、著者がわかり易い文章を書くためにいろいろと苦労された話も参考になりました。

他にも印象的な話題もたくさんありましたが、中でも名オペラ歌手のジュゼッペ・ディ・ステファノについて書かれた「天才」には特に興味を覚えました。こういう天才っているんですね。でも、著者が言いたいのは次のようなことです。

「天才は、発見されなければそのまま終わってしまう。どのようなひとにも、そのひとに一番適した仕事があるはずである。それが天才と呼ばれる域に達していようがいまいが、そのひとに一番適した能力を発揮できるときに、そのひとは一番幸せになれるのではなかろうか」(94頁)

また、わが国の脱原発運動の理論的主柱だった高木仁三郎についての章は、たまたま今のような事故が起きているだけに、タイムリーでした。こんな立派な人がいらっしゃったんですね。

それにしても、今回の事故ですが、原発の安全性をあらためて確認できるように何とか頑張ってほしいです。しかし、このままだとスリーマイル島の事故の状況にどんどん近付いているようで不気味です。

(ちくま文庫2010年760円+税)

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