磯田道史『日本人の叡智』
この春まで朝日新聞の土曜版に連載されていた記事をまとめた本です。いつも楽しみにしていたのに、最近見かけないなと思っていたら、連載の方は終わって、代わりに本になって出てくれました。ありがたい。これまで気に入ったものは切り抜いていたのですが、こうして本になるとその手間が省けます。
それにしても、著者は丹念に先人の言葉を拾い集めてまとめてくれています。著者が「書庫のなかでみた日本人の叡智は想像を絶するものであった」(10頁)というだけのことはあります。ただただ驚きながらページをめくりました。読み終えるのが惜しい本でしたが、今後も座右に置いて何度でも眺める本になりそうです。
本書に集められた言葉は必ずしもすべてが偉人として名の通った人のものではなく、歴史の中に埋もれかかった知られざる人びとのものも多数収録されています。それぞれの短い記事の中に、無名の畏るべき賢者のしばしば波瀾万丈の生涯や挿話が適宜組み入れられていて、感動的です。またときにはぎょっとさせられたりします。東條英機の狭量さと残酷さを示すエピソードなど、本当に腹立たしくなります。
本書に取り上げられるのは昔の人だけではなく、現代では数学者の岡潔や経営者の土光敏夫まで含みます。著者の関心が広く、また深いことがわかります。
ところで、その土光敏夫の言う「期待される社員像」は「①頭脳を酷使する人②先をみて仕事のできる人③システムで仕事のできる人④仕事のスピードを重んずる人⑤仕事と生活を両立できる人。要すれば変化に挑戦しうる人」だそうです。なるほどその通りでしょうけれど、これを裏返すと典型的な官僚や大学教員(あるいは官僚化した大学教員)になってしまうなあと思いながら読んでしまいました。
いろいろと味わい深い本です。
(新潮選書2011年720円税別)

