木田元『なにもかも小林秀雄に教わった』
著者の木田元が小林秀雄を導き手にしながら文学や哲学を読んできたとは知りませんでした。でも、そういわれてみればそんな気がします。いつもの半生記がちょっと角度を変えて書かれていて、これもまた名人の話みたいで好きです。
ハイデガーと小林秀雄というのもなるほどつながりが直接あるわけではないにしても、やはり地球上で同じ空気を呼吸していたわけで、通底するものはあります。それはおそらく考える人としてのセンスの良さなのでしょう。
ただ、ハイデガー嫌いの私としては、小林秀雄の方がハイデガーより根本的なことをしっかりわかっていた人のように思えます。かつて山本七平は小林秀雄の聖書理解の深さに驚いていましたが、それは当然ハイデガーの聖書理解(結構表面的です)よりも鋭かったのでしょうし、その点が両者を分けるものだったのだろうと創造します。
別に日本人の小林秀雄がドイツ人のハイデガーよりも聖書理解が深くても不思議ではありません。ヨーロッパ人の方が大リーガー級だと思うのは勝手ですが、事実として乗り越えている人がいることが見えなくなるのは残念なことです。
これは著者のことではありません。日本の不特定多数の権威主義者たちのことを言っているのです。著者は小林秀雄を「近代日本の生んだ偉大な思索者の一人であると認めざるをえないし、こんな師匠に導かれて本を読み始めることができたのは本当に幸運だったと思う」(241頁)と述べています。蓋し至言です。
(文春新書2008年750円+税)
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