群ようこ『かもめ食堂』
普通の感覚を持った普通の人びとが集まってきて、気がついたら面白い話の展開をそれぞれ受け持ってしまっているという不思議な小説です。のほほんとしたふんいきばかりではなく、ちゃんとアクションシーンもあり、ちょっとどきどきします。で、読後感がよくて、ほんわかとした気にさせられます。
その普通の人が集まってくるのがどういうわけか北欧フィンランドの首都ヘルシンキです。そこで一人でレストランを経営する日本人女性が主人公の一人ですが、38才という年齢にもかかわらず、現地では当初子どもに見られます。女の子が一人で働いている不思議なレストランということで人びとから奇異な目で見られているところに、40代の日本人女性が転がり込んで働き出し、ガッチャマン大好きのフィンランド人大学生の常連客やら、後にあらためて50代日本人女性が転がり込んできたりで、お話は徐々に動き始めます。
みんなそれぞれのどこにでもありそうな問題を抱えていて、それなりにワケありなのですが、等身大の健全な常識を持ち合わせたキャラクターたちです。このあたりは著者の他の小説にも出てきそうな感じですが、フィンランドってまた著者はどういうところから思いついたのでしょうね。
登場人物たちは全くの偶然からフィンランドに集まってきますが、中には目をつぶって地球儀を回して指さした国に行こうと決めてフィンランドにあたったなんて人も出てきます。
フィンランドというのは、私はトランジットで空港を通過しただけの国ですが、本や映像から得られたイメージや、知り合った限りのフィンランド人の印象そのままという感じがしました。著者はかの地を訪れた経験があるのかもしれません。地味ながらしっかりとしたリアリティを感じます。それとも筆の力でしょうか。どちらでもいいことですが。
著者の文章は難しいところがまったくなくて、かつ言いたいことはしっかり言ってしまう切れ味をそなえていて、爽快感があります。この文体を念頭に置いて論文を書くとリズムがいい上にわかりやすくなりそうです。
かつては著者の本は文庫本が出ている限り読んでいましたが、このところさぼり気味でした。また追ってぼちぼち読むようにします。
(幻冬舎文庫平成20年457円+税)
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