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2011年5月20日 (金)

養老孟司『かけがえのないもの』

著者の言いたいことが詰まっている本でした。語り口は穏やかで一見平易ですが、論理は時折ポーンと飛んだりして、それがまた面白かったりするので、コアなファンにはたまらないと思います。でも、『バカの壁』から入ると戸惑う読者も少なくないと思います。

でもこの内容は本当は過激で万人向けではありません。予測のつかない自然を受け入れて、自然の声に耳を傾けて人生を楽しんでみましょうというのは、わかりますが、実際に自分でやるのはかなり難しいはずです。

こういうことを言っている思想家で思い当たるのは、フランスのアランです。アランは西洋人には珍しく、わけのわからないものを静かに受け容れることのできる思想家でしたが、著者の感覚は近いものがあると思います。

そもそも、日本人には本来しっくり来る考えですから、理性中心の哲学者・思想家たちはなじまないのですが、今日では理性を無くしてしまっても困るので、バランスが問われます。この点で、著者はそのあたりの事情を脳に着目しながら考えてきたわけです。

でも、この考えを掘り下げていくと、もはや脳ですらないところに到達しそうです。そのあたりが本当は難解なところなのですが、話は「わけのわかんないものとどうつきあうのか」というところに落ち着きます。そのため池田晶子のように「考える」ということが存在とは別に存在しているというような面白い話には向かいませんが、示唆を受けることはたくさんあります。

著者が甲野善紀や内田樹さんと相性がいいのも、この唯脳論的身体論のスタンスが共通しているからなのだと、あらためて気づかされました。

(新潮文庫平成21年400円税別)

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