米長邦雄『不運のすすめ』
著者は将棋という実力の伯仲する激烈な勝負の世界を生きていた人だけに、言うことに重みがあります。その人間観察力は並大抵のものではありません。
読んでいて、どうやら勝負に勝つということは演奏家が名演奏をするときのような境地に近いものがあるのかもしれない、という気がしました。
演奏家もまた普段から徹底して自己鍛錬を重ねておいて、本番では自分を客観視できる冷静な心持ちを保ちながら、余計なことを考えずに演技に集中することができなければなりません。この一見矛盾した境地に自らを置くことができるとき、はじめて女神が微笑んでくれるのでしょう。
実にストイックな世界だと思いますが、思えば勝負事に見えなくても人生でそういった局面はたくさんあります。何をするにも鍛錬していなければ始まらないということがわかります。
著者の師匠やかつての名人、さらに最近の若い天才棋士たちのエピソードにもいろいろ教えられるところがあります。
私自身こんなすごい勝負の世界にいるわけではありませんが、それでも勝負と無縁ではありません。変な奴に大きな顔をされたくないですし。
その意味でも改めて身の引き締まる思いがします。がんばろっと。
(角川ONEテーマ21、2006年686円税別)
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