藤原正彦『数学者の休憩時間』
著者は常に国家を背負って立ち、気合いで生きている、一昔前の日本男児の鏡のような人です。何もそこまで気合いを入れなくても、と思うシーンもありますが、あらためて見倣わなければと思わされるところの多い本です。
古風な日本男児で、『国家の品格』がベストセラーになったりしたので、保守系論壇人のスタンスを思い浮かべがちですが、著者の政治的スタンスは決して保守ではなくてリベラルです。自由をとことん愛し、追求します。摩擦も起きますが腕っ節の強さと迫力で乗り切ります。このあたりは誰にでも見習えるところではなさそうです。
本書ではとりわけ著者のお父さんの新田次郎が旅したポルトガルを、その影を確認しながら訪ねて回る旅行記「父の旅 私の旅」の章が感動的でした。冒頭の奥さんの出産に立ち会うラマーズ法の実践記録とともに心に残ります。
もちろん、途中の短いエッセーもいいですけど。本書の最初と最後にある長いエッセーはちょっと様子が違い、ただならぬ気合いが感じられます。武士の魂を持った人で、同時に深い愛情にあふれた人でもあります。
数学者に必要なのは深い情緒だという主張も、ご本人がそもそもそういう人だということを差し引いても、十分納得できます。ただし、一流の数学者に限っての話のような気もします。数学者でなくても情緒を欠いた三流学者なら世の中にあふれていますから。
(新潮文庫平成5年476円税別)
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