養老孟司『いちばん大事なことー養老教授の環境論』
子どもの頃から筋金入りの虫好きだった著者は、虫の背後にある自然についてもしっかり観察し、考えていたことがわかります。自然の多様性が確保されているところでは虫がたくさん捕れるからです。
逆に、虫が世界中で捕れなくなってきているということは、人間が自然をコントロールし、あるいはむしろ滅ぼしてきたことの証です。人間は合理的で予見可能性の高い安全な社会を追究してきたので、当然自然に敵対的な行動をとります。
さて、今日では人類は自然を飼い慣らすことに成功したように見えますが、そうは問屋が卸さないことは、天変地異の度ごとに思い知らされます。先だっての地震や津波については言うまでもありませんが、実はほかならぬ人間自身の身体がすでに自然なのでした。
本書では日本人が古くから自然に「手入れ」をほどこして、たとえば里山のような多様な自然環境を保全してきたことに注目しています。手入れこそは自然と対話をする上での知恵が身につく行動の代表格です。
山林を原生林に近い状態にして放っておくと広葉樹林になりますが、広葉樹林は日照を遮るので下草が生えなくなるというのは言われてみるまで気がつきませんでした。下草が生えた山林というのは人の手が入っていて初めて可能になるものだったのですね。
いろいろと貴重な情報もたくさん入っていますが、最後に自然の手入れを学ぶために都会から田舎へとローテーションで人口の4分の1ずつ参勤交代をしてはどうかとの提案がなされています。なるほど、これをもしやるとなると、日本人の総合力は格段にアップすることだろうと思います。
今まで私が読んだ著者の本の中でも本書はベスト3にはいると思います。『唯脳論』はまだ読んでいませんが、いずれ読まなきゃ。
(集英社新書2003年660円+税)
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