柳澤桂子『われわれはなぜ死ぬのか 死の生命科学』
専門的知識が手加減なしに書かれているところはありますが、「死とは何か」という問題に生命科学の立場から真摯に取り組まれた本です。生物のさまざまな死のあり方も驚きに満ちているとともに、そのことからいろいろと考えさせられます。女王蜂が子供を産めなくなったら牡蜂に殺されるとは知りませんでした。また、無性生殖でいつまでも生きている植物の話や、アトポーシスについての話も印象的です。
著者は言います。「生命の歴史の中では、生と死はおなじ価値をもつ。生きている細胞より、死んだ細胞の数の方がずっと多いという意味において、それは死の歴史であるともいえる。三六億年の生命の歴史のなかに編み込まれた死を避けることはできないし、それは避けてはならないものである。死によってこそ生は存在するのであり、死を否定することは生をも否定することになる」(218頁)
そして、人間の死については「意識のなかの死であり、心理的な死である。死は私自身の問題であり、親しいものに悲しみをあたえる。それは三六億年の歴史とは無関係な感情であり、むしろ静的なものである」(218-219頁)と言います。
生命のこの二つの側面、つまり、生物学的な側面と心理学的な側面を十分に配慮しなければ、人間は限りなく傲慢になるでしょう。そして、死すべき運命にあり、死を恐れることを知ってしまった人間だからこそ「お互いに心を通わせ合い、深く相手を思いやることが生の証のように思えるのである」(同頁)
こういう大きな視点に立てるところが立派です。著者自身、過酷な闘病体験からも多くのものをえられたのではないかと(直接書かれてはいませんが)想像されます。日垣隆の電子書籍に著者のインタビューがありますので、読んでみてください。
心を込めて丹精を尽くして書かれた本です。いい表現がたくさんあって、気に入った箇所を何度も読み返してしまう本です。
(ちくま文庫2010年760円+税)
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