養老孟司『真っ赤なウソ』
柄のないところに柄をすげて、それはおかしいと唱える著者の面目躍如たる本です。王様は裸だと唱える虫好き少年の目から見るとこうなるのかもしれません。
もちろん著者は大人なので虫の世界だけでなく人間の世界の生態もよく見えています。これを虫を見るように見てみると、やはり普通のウソで固めた世の中の妙なところがよく見えるのでしょう。
今まで他の本でも著者が述べてきたことですが、本人が死後献体したいと言っていたのにもかかわらず、これに反対する遺族の中には、生前の本人と仲が悪かった人が含まれているという例は、「今度は俺のいいようにしてやろう」(152頁)という権力欲なのだという指摘が印象に残りました。この手の意地悪は大学ではしょっちゅうありますので、これが権力欲なのだという主張にも十分納得がいきます。
また「みんなが庶民であると、ひょっとした瞬間に、特権的立場になってしまうことがあるんです。人は状況によって権力者にもなるんです」(156頁)という指摘もその通りだと思います。「いまの世界で一番怖いのは庶民」という見出しはもっともです。この実例は巷にあふれていますから。今度『権力の社会学』を書くときに参考にさせてもらうつもりです。
著者の本は話の飛び方が唐突なところがあるのですが、慣れてくると、これがかえって快感に変わります。これはしゃべりおろした本だからでしょうか。書いていてそうなるのでしょうか。ま、いずれにしてもスリリングで面白いと思います。
(PHP文庫2010年457円税別)
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