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2011年7月19日 (火)

川上弘美『龍宮』

主人公が異界からやってきたり、あるいはいつの間にか異界に溶け込んでしまったりと、川上ワールドの住人たちはいつもふわふわしています。性の描写もしばしば出てくるので(苦手ですが)、これを通じて作者は何を言おうとしているのかと考えていたら、わけわかんなくなりそうです。
 たぶんありえない不思議な設定の中からある種のリアリティがたちのぼってくるような「うそばなし」(本人談)なのでしょう。メッセージはたぶんありません。それでいて、これを見事な文章で読ませてくれるところがこの作家の畏るべきところです。
 こんな小説を1編だけ、かの折口信夫が書いていたと思いますが、読み返してみないと何とも言えません。ちょっと禅竹の作品のような感じもしますが、これも丹念に読んでみないと何とも言えません。日本文学で近い世界を書いている人はそれなりに思い当たりますが、文章はこんなに見事ではなかったように記憶しています。インテリにファンが多いはずです。
 でも、だからといって作品の深い思想を語ったりするのはナンセンスですし、それを裏返したかのようにポストモダンの作品として論じるのもあざとい感じです。たぶん著者はその手のあざとさとは無縁なのだと思われます。
 こんなふうに、ほとんど何も考えていないようでいて、ひょいっとこんな作品世界を創造できてしまうというのが、実は日本の(特に女流の)文学的伝統なのかもしれません。

(文春文庫2005年438円+税)
 

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