群ようこ『へその緒スープ』
日常生活の中に現れる人びとの怖い一面が鮮やかにとらえられた短編集です。「えーっ、でもありそう」というお話が10編収録されています。
今、何気ないところから権力意識が成長していく姿をとらえた小説の場面やエピソードを意識して集めているので、本書も読んでみました。社会学の論文に直接引用するような場面は今のところなさそうですが、そのうち何かと化学反応を起こしてくれるかもしれません。
それにしても、人間というのは厄介な生き物です。優しさと残酷さを併せ持っているくらいならふつうなのですが、残酷さが大幅に上回っている人でも、いっちょまえに大人の格好をして暮らしているから、一見して見分けがつきません。
つねにあなたのそばで、嫉妬と悪意のかたまりのような人が、隙あらば金棒引きをしようとして待ちかまえているのですから。そうでなければ、自分だけいい思いをしようとしてあらゆる手段を使って抜け駆けをしようとしています。
これもまた人の世の常です。組織には必ずこのタイプの人間が存在しますが、そんな連中と下手に張り合うと同じレベルで争うことになるので注意が必要です。
いずれにしても、なかなか人間はこの世では悟りを開けないようです。このぶんではおそらく、あの世にいっても無理です。人は何度も生まれ変わらなければ悟りを開けないという仏教の教えは、おそらくこの世の理不尽さと人間の残酷さを観察することから得られた知恵だったのでしょう。
(新潮文庫平成14年438円+税)
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