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2011年8月31日 (水)

吉本隆明『真贋』

金言だらけの本です。「文句なしにいい作品というのは、そこに表現されている心の動きや人間関係というのが、俺だけにしかわからない、と読者に思わせる作品です」(69頁)なんてことがさらっと語られています。こういう定義の仕方自体が著者独特ではあるのですが、いつもどこかに理屈を超えた説得力を感じさせてくれます。

幼児期の母親との関係が人間の性格に決定的に影響するという著者の立場は、本書でもいろいろな作家を語りつつ確認されます。このあたりは他の著書でもおなじみのテーマのリフレインですが、本書で特に著者らしいなあと思ったは次のようなところです。

「社会にとって本当に大切なものは、どこかにあることは確かです。では、それはどこかと言えば、少なくとも、大多数の一般の人が認めているところが、きっと人間にとって一番大切なところではないでしょうか」(208頁)

これは世間でふつうに暮らしている、良識ある人びとの判断力に信頼を置く著者ならではの発言です。長年著者のものを読んできて、私自身読者としてやはりこの点が一番気に入っています。ここを基準において思考の定点観測をしているところが、その他のインテリたちと違うところなのでしょう。

それから、太宰治の書いた小説『右大臣実朝』の台詞に出てくる「人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ」というのが引き合いに出されていて印象的でした。そうか、これならまだ今の職場は大丈夫そうです。でも、いつも暗いのも考えものですが。

(講談社文庫2011年495円税別)

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