曽野綾子『老いの才覚』
著者には『戒老録』という本もあって、同じようなことが書かれているのかなあと思いながら読んでみましたが、あれは著者がまだ30代だったにもかかわらず、人生の折り返しに来たと感じたときに書かれた本でした。
本書は本当に著者が後期高齢者になってから書かれた本で、やはりだてに年をとっていませんでした。こちらが年をとったということも手伝ってか、本書では印象に残る言葉がさらに増えていたように感じました。
以下に少し挙げてみます。
「私は、自分の財産というのは、深く関わった体験の量だと思っています。若い時から困難にぶつかっても逃げ出したりせず、真っ当に苦しんだり、泣いたり、悲しんだりした人は、いい年寄りになっているんです」(32-33頁)
「その人の生涯が豊かであったかどうかは、その人が、どれだけこの世でこの世で『会ったか』によって、はかられるように私は感じています。人間にだけではなく、自然や出来事や、もっと抽象的な魂や精神や思想にふれることだと思うのです。何も見ず、だれにも会わず、何事にも魂を揺さぶられることがなかったら、その人は、人間として生きてなかったことになるのではないか、という気さえします」(114頁)
著者は昔から流行の思想に決して飛びつかず、じっくりと人間観察をして、自分の言葉で考えてきた人なので(小説家ですからね)、年をとればとっただけいろんな人に会い、「財産」を増やしてこられたのでしょう。体験と観察に裏打ちされたいい表現がたくさんあります。
で、それはそれとして、本書で一番驚かされたのは、本書の最後に引用されているブラジルの詩人、アデマール・デ・パロスの詩「神われらと共に」でした。仮に著者の思想が気にくわないという人でも、本書はこの詩が収録されているだけで買う価値のある本です。立ち読みでもいいです。読んでみてください。すごいです。
著者は最後にこう言います。
「この詩をしみじみ思える人生を生きている人が、私のまわりにたくさんいました。そういう人たちの人生を見ることができて、ほんとうによかった、と思います」(169頁)
(KKベストセラーズ2010年762円+税)
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