冨山和彦『「決断できないリーダー」が会社を潰す』
今どきあまり楽な会社はないと思いますが、経営状態が苦しくなってきても決断を下すことだけは断固として回避し、決して責任をとろうとしない態度だけは一貫しているリーダーが少なくないと思われます。出世のエスカレーターに乗ってしまえば一生安泰という形で押し上げられただけの学校秀才はしばしばそんなことになりがちです。
著者は東大法学部を出て司法試験も合格した華麗な学校暦と学習歴の持ち主ですが、あえて20代でコンサルティング会社を立てて、経営者としてビジネスの最前線で活躍してきた人ですので、わが国の典型的偏差値エリートのダメさ加減をよく知っています。
著者が重要視するのは「ストレス耐性」で、「頭がいいとか悪いとかに関係なく、ストレス耐性のない人は、本当に闘ってほしい局面で機能しなくなる」(58頁)と言います。確かにストレス耐性がない人はそうした局面で周囲が見てもはっきりわかるくらいに手が震えてみたり、顔が青ざめたりするのでわかっちゃいますね。
本人は自分より頭がいい人なんか他にいないと思っているだけに、いったん動揺すると世界観が壊れるくらいショックを受けるようです。そんな人がリーダーになったらそりゃあもう責任を回避することしか考えなくなるでしょう。ある意味で気の毒です。
しかし、座して死を待つしかないような状況に置かれたわれら下々の者どもはもっと悲惨です。いろんなアイデアは下から上げてもことごとく潰されるか、無視されて、それを採用した他企業がこの不況下にもかかわらず業績を伸ばしたりしているのを目の当たりにすると、本当に腹立たしくなります。
新しいことには断固として反対だけはするんです。その理由を見つけるのはバカでもできますから、偏差値エリートには造作もないことです。
しかし、本書は著者が偏差値エリートを極めた人だから説得力がありますが、末流大学の出身者がエリートにもの申すこと自体禁じられているので、その場合にはもう、本当に著者がかかわっていた産業再生機構に来ていただくしかないのかもしれません。
本書の内容は頭のいい人の本らしく、見出しにきっちりと出ていますので、以下見出しの中でこれはと思ったものを抜き書きしておきます。
・これからは、リーグ戦を勝ち抜いた経営者の時代になる
・仕事ができるかどうかのポイントは、ストレス耐性
・自社の立て直しで学んだのは、誠心誠意を尽くすこと
・会社の倒産は詰まるところ、人間の弱さの問題
・一般解を求める経営者は答えを先送りする
・ガバナンスの本当の仕事は、社長の首を切ること
・失敗がないのは、勝負してないことの証
・生き残りの決め手は、人に対する好奇心
などです。なお、第4章の「アメリカの民主主義は、エリートの重要性を理解している」というくだりは比較文化論的にも面白かったです。
(PHP文庫2010年476円+税)
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