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2011年9月 8日 (木)

内田樹『最終講義 生き延びるための六講』

この春めでたく神戸女学院大学をご退職になった著者ですが、本書はその最終講義を含む講演六本が収録されています。どれも面白かったです。著者があとから手を入れたにしても、ライブのアドリブ感が息づいていて、ジャズのライブみたいです。

著者の議論は私には既視感があります。それはマルクスやフロイドに始まり、現代フランス思想で余計手の込んだものになった1980年代のあのしょってる知識人の語り口なのです。しかし、それはこれだけ自家薬籠中のものとして上品に語ることのできる人は他にいません。

私の場合、現代思想のあの思わせぶりな語り口にうんざりして、気がついたら20世紀初頭のハンガリー思想ばかり読んでいましたが、こうしてある程度名が知られるようになった著者のものを初めて読んだとき、ああ、こんな道もあったのかと新鮮な驚きを覚えた記憶があります。

そんな著者ですが、やはり1980年代の東京の「まさに生き馬の目を抜くような」学術環境はやっぱりおかしく見えていたんですね(11頁)。ちょっとほっとしました。秘密の花園のような神戸女学院で育てられたのはほかならぬ自分だったとおっしゃっていますが、そうでしょうね。著者も昔からホンワカしていたわけではなかったこともわかります。

アメリカ論とか、自民党と民主党の分析とか、自殺率の問題とか、日本人のユダヤ人に対する関心の高さはなぜかという問題とか、創見がたくさんあって、本が付箋だらけになってしまいました。そこのところだけ読み返してみると、これまた面白いという不思議な本です。おもしろさの甦り方が独特なのです。一粒で二度おいしい、みたいなところがありますこれはおそらく元が講演だというところにあるのでしょう。

(技術評論社2011年1580円+税)

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