トーマス・クーン『科学革命の構造』中山茂訳
昔読んでピンと来なかった本ですが、論文に必要なので再読しました。やっぱり今ひとつピンと来ませんでした。世評は高いのですが、語り口も含めてまったく肌に合いません。
まあ、確かにパラダイムという言葉は著者が使い始めて人口に膾炙するようになったので、そのコピーライター的センスは並大抵のものではないと思います。しかし、そのパラダイムという言葉に著者が明確な定義を与えているかというと、そうでもなくて、曖昧なところがたくさんあります。論敵もそこを突く人が多かったのでしょう。版を重ねるごとに仮想敵を意識してか、記述が余計錯綜してくる感じがします。
パラダイムが変化することを「科学革命」なんて言っちゃったものだから、かえって説明が面倒くさくなっている気がします。ただ、これもネーミングがいいので、特に革命好きの日本のインテリには好まれる要素があったのではないかと思います。
要するに、パラダイムというのは「これが科学だ」と科学者みんなが考えている価値観のことで、アインシュタインが出てくるとニュートン的な前提がひっくり返ってしまうのを科学革命と著者は呼んでいます。
ただ、そうした同じパラダイムに属する科学者集団の中で、新たな科学的発見がどうしてもたらされるのかということついては、マイケル・ポラニーの暗黙知に言及する程度でお茶を濁しているので(それはそれで貴重な言及ではあるのですが)、物足りない気がします。そこのところがこの分野で一番スリリングかつ面白いところなのにねえ、と思ってしまいます。
でまあ、結局のところ、またポラニーに戻らなければいけないようです。いいんですけど。
(みすず書房1971年)
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