土屋賢二『あたらしい哲学入門 なぜ人間は八本足か?』
かつて哲学の恩師が、英米の言語哲学は才能のある人たちが束になってかかっても歯が立たないところがあると言っていたので、なるほど、そういうものかと思っていましたが、著者はきっちりその立場から哲学を書き上げています。そして、著者がウィトゲンシュタインに始まる日常言語学派の中でも最高の成果を上げている哲学者の1人だったんだということまで分かりました。
あのユーモアエッセーも〈哲学の問題にはそもそも論理的にヘンなところがあり、そのあたりをきっちり整理すると、問題はほとんどなくなる〉という議論の副産物として書かれたようなところがあります。論理が鋭すぎて笑いの領域にまで突き進んでしまったのかもしれません。
副題の「なぜ人間は八本足か?」という問題は、そもそも問題がヘンなので、答えることができないのですが、哲学の問題の多くはその種の誤解に基づいているというのが、ウィトゲンシュタインに影響を受けた著者の立場なわけです。で、それはそうなんでしょうが、この問題を読んだだけで笑っちゃいますから、哲学の問題を解消するためとはいえ、そんなことばかり考えていると、笑わずにはいられない境地に達するのかもしれません。
また、これと同じ問題意識をユダヤジョークの中に発見したりするところ(44-50頁)も面白かったです。「壁に掛かっていて、緑色をしていて、口笛を吹くものは何だ?」(49頁)というなぞなぞの答えってわかりますか? 答えは「ニシン」なのですが、そのとことんナンセンスな理由付けに驚かされます。まあ、本書を読んでみてください。
こういうジョークを聞いたり、ラビのもとでタルムードをああでもないこうでもないと解釈しながら育つと、優秀な法律家が出てくるのは当然のことのような気がしますし、哲学者が出てくるなら、やはりウィトゲンシュタインやレヴィナスのような一筋縄ではいかないタイプになるのでしょうね。
ユニークでおそるべき哲学入門です。類書はありません。
(文藝春秋2011年1333円+税)
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